その11.ほんの小さなできごと

「泥船会社盛衰記」連載!

脱線すると予告していたものの、たいしたエピソードではない。主要人物に関する小さな思い出話を書き残しておこうと思っただけのことだ。

部長と結婚式

総務部長のイササカさんは一番まともな上司といえた。いや、違法コピーとかやっちゃってる時点でダメなのだが、他のメンツと比較した場合には常識人寄り。初日には私のマウス操作を見て驚いたりしていたが、エクセルのマクロを使えたりと思ったよりPCが苦手な人でもない。ある日、そんなイササカさんが珍しく休暇をとろうとしている。

「…娘の結婚式があるんだ」

照れたような、微妙な表情を浮かべている。父親の複雑な心境があるんだろう。こちらとしては、おめでとうございます、と当たりさわり無いことしか言えなかった。

そして、イササカ部長の休暇明け。結婚式どうでした?と聞こうとしたのだが、様子がおかしい。虚ろな表情で遠くを見つめてぼーっとしている。声をかけられずにいると、何かぼそぼそと言っている。

「な~ぐっちゃった~・・・・」

(???)

「新郎・・・殴っちゃった・・・な~ぐっちゃった~・・・・」

どうやら酒に酔った勢いで新郎をぶん殴ってしまったらしい。最愛の娘さんにも相当絞られたであろう。こんなにも完成された『うわごとをつぶやく人』を見れたのは後にも先にもこのときだけだ。

世の中のお父さん方。廃人にならぬよう、ぜひとも気を付けていただきたい。

社長と昼めし

「高雄は普段どこで飯食ってるんだ?」

お昼時、おもむろに社長に尋ねられる。飯の時くらいは仕事から離れたかったのでずっと外食をしていた。社内だろうと外回り中だろうと基本一人でどこかの店に行くスタイル。

「だいたい近所のラーメン屋とかファミレスですけど・・・」

そんな風に答えると、

「今日は俺を連れてけ。普段通りの場所でいいから。」

こんな感じで決まってしまった。恐る恐る社長を連れてバーミヤンに行く私。この選択肢で本当に大丈夫なんだろうか・・・と内心ドキドキである。中小企業とは言え、さすがに社長。バーミヤン初体験となったようである。そしておもむろに店員を呼ぶと、メニューを開いて、指で見開き全体をぐるっと囲む動き。

「全部持ってきて」

(え?なんとおっしゃいました?全部?)

若いんだからたくさん食え!というおっさんのノリだ。金額的にはなかなか豪勢なおごりだが、正直嬉しくない。昼下がりにとんだロープライス満漢全席であった。

みなさんも社長とご飯にいくときはバーミヤンを選択しないよう、ぜひとも気を付けていただきたい。

社長と新商品

最後にここに触れておこう。例のアヤシイ商品はどうにもならなくなってしまったうえに、PCやホームページの方も売り上げに貢献できていないため、社長としては新しい目玉商材が欲しいという状況。ある日、新しい商材のデモがあるということで、私も同席した。

新しい商材はネットワークカメラだった。

2017年現在で言えば、家にいるペットの様子を出先からスマホで確認!といった商品が普通にある。しかしこの話の舞台は15年以上も前。その時点でここに目を付けた社長の視点は鋭いのだが、惜しむらくはADSLの普及すらしていないということだ。ISDN回線か電話回線なのである。これは現代のスマホの低速通信より遅いレベルだ。

その通信環境では動画を送ることは不可能で、数秒置きに静止画が送られてくるだけのネットワークカメラということになる。当然、カメラの画素数なんかも格段に低い。時代を先取りしたアイデアなのだが、実用的ではなかった。(実際売れなかった。)

しかし。社長にはもうひとつのアイデアがあった。すでにソフトウェアの開発も進めているという。

・・・・。

だ、大丈夫なのか・・・?その全貌は、また次回。

<つづく>

「ダブルオーゼロ」よりスタッフとして参加。スタッフ兼エキストラとして活動していたが、2012年より役者にチャレンジ。

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