その17.巡り巡って

「泥船会社盛衰記」連載!

人が減っている分、忙しい日は続く。

主力と言える商品は無く、売り上げはたたない。なんとかしようと休日出勤する人も出てくる。そうなると私の方も引っ張り出されることが出てくる。そんな中、きっちり週二日休んでいたのは東京事業部の面々。

ある日、東京事業部から声がかかって向かったのだが、事務所のプリンタが使えなくなったからなんとかしてくれ、というものだった。プリンタの設定くらい自分でなんとかしてくれ。前回書いたように精神的に疲れていた私は東京事業部の部長に噛みつく。

「この程度のことで呼び出さないでください。パソコン販売しようってのにこんなこともできないのは酷い。なんなら土日を使ってパソコンの勉強会しますか?教えにきますよ?」

東京部長は黙るだけでこの話は広がらなかった。今思い返せば父親ほどの年齢の人に食って掛かってたことになる。いろいろ冷静ではない。このときにちょっとした勉強会を開いたところで焼け石に水、何の役にも立たなかったろう。


場面は変わって。

常務に呼び出される。なにやら関東圏を少し出たところの事業所、グループ会社などを巡るという。私が着いていく意味を感じないのだが、なぜか気に入られてしまっているようだ。車のドライバーとして、北へ向かう。

他愛もない話をしつつ、事業所へ到着。常務が打ち合わせ等をする間、私は暇になってしまうので事業所内のパソコン環境についての相談を受ける。なぜかここでもプリンタの設定。そういえば大阪事業部からもプリンタ設定の話があった。そんなにプリンタ設定って難しい?という気にはなるが、まあ仕方ない。

滞在時間もそこそこに、次へ移動。向かったのはシズル部長がいるホームページ制作を行っている事務所だ。数名のスタッフが黙々と作業を進めている。仕事はきちんと回っているようだったが、シズル部長の姿は無い。既に退職していたのだ。

「とりあえずこのパソコンは引き上げるか。ちょっとやっといてくれ」

常務からシズル部長が使っていたMacを片付けるよう命じられる。片付けとは関係ないが、少しだけ中身をチェック。

(フォーマットされているわけじゃない・・・けど・・・仕事をしていた形跡を感じない・・・?)

辞めるにあたってファイルだけ削除したんだろうか。アイコンなどカスタマイズされた感じは残っている。謎。ホントに仕事してたの?あの人はなんだったの?という気持ち悪さだけが残るのだった。シズル感。


そして再び移動開始。グループ会社へ向かうのだが、途中ユーザーさんのもとへ立ち寄る。と、そのお店にあったのはあの『アヤシイ商品』だった。完全に不意打ちだった。過去に販売したものかと思ったが、割と最近のようだ。パンドラボックスへ切り替えて取り扱いを辞めていると思っていたのだが、それは本社だけで販売を続けているところもあったというわけだ。

軽くショックを受けながら目的の事務所へ。最後に立ち寄ったここが、アヤシイ商品を取り扱っているようだ。はっきり教えてもらえなかったが、どうにも変な売り方をしている様子で、常務の目的も問題が起きていないかどうかという確認だったようだ。

しかし。

時すでに遅し。

すでにトラブル真っ只中であった。タイミングを見計らったかのように事務所に人が入ってくる。怒りの形相。凄い剣幕。アヤシイ商品のお客さんのようだ。

「まあまあ、こちらでお話ししましょう」

いつもの笑顔、軽いノリで奥の部屋へお客さんを誘導する常務。私は外で待つ形だ。しばらくたったのち、納得していない表情のまま出ていくお客さん。常務は何も教えてくれなかったが、小さく、

「たたむか・・・」

と呟いた。事務所を閉じて逃げるということか。完全にアウト、という状態だ。この事態に自分としても何をどう対応していいかわからない。ただただホームページ関連で関わった自分のお客さんには最後まで誠意をもって対応しようと心に決めるのみだ。


その後、本社に戻ってまた自分の仕事に邁進していくのだが、売り上げが好調な若手の営業チームが地方の事業所にいるという話が流れてきた。

会社のピンチに心強い話だと思ったのだが、そのチームにはあの”こすずるい男”ゲス谷が所属していた。彼らが扱っていたのもまた、アヤシイ商品。トラブルはもはや取り返しのつかないことになっていた。

<つづく>

「ダブルオーゼロ」よりスタッフとして参加。スタッフ兼エキストラとして活動していたが、2012年より役者にチャレンジ。

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