その9.明日の在りや無しや

「泥船会社盛衰記」連載!

幹部に引っ張り回された話を以前にしたように、なかなか大変なことが続いていた。しかし、社長や幹部たちに重宝がられ、給料も早いうちから上げてもらっていたり、積み立てもしていないのに社員旅行に連れていってもらったりと全部が全部悪いことでもない。その辺については満更ではない、なんて思っていた。思っていたのだが・・・。

今度は足利方面からの仕事が入る。PCの販売台数も多く、ホームページ制作も考えているという大口のお客様だ。ひとまず社長さんのPC周りの初期設定などを頼まれたため、足を運ぶこととなった。販売したモノは当時にしてはスリムなPC。初期設定はなんの問題も無く、もともと社長さんが使っているプリンタ等周辺機器の設定をしていくだけだ。

ところで、一昔前のプリンタといえば、こんなケーブルが使われていた。USBと比べるとなかなかごつい。社長が使っていたプリンタはまさにこのケーブルで繋ぐ機種だった。・・・何が起こったかお分かりだろうか。販売されたスリムPCはUSB接続前提の機種となっており、パラレルケーブルを使うプリンタは接続不可能だったのだ。

当然、社長は激怒した。営業のすすめでPCを買い替えて周辺機器が使えなくなったんだから当たり前だ。その場にいても解決にならないので、なんとかしますのでお待ちくださいとその場を離れて、本社に相談。

「へー、大変だねぇ」

電話に出る人はこんな返事ばかりで全く取り合ってもらえない。次に営業担当のモリさんに連絡。モリさんが確認を怠って起きた事態だ。対応策を一緒に考えてもらえると思いきや、

「知らねぇよ。てめぇでなんとかしろ、この高給取りが。」

吐き捨てるように言われる。え?なんでそんな扱い・・・?ここで幹部に重宝されていることが裏目に出た。以前少し触れたが、私が外回りをしているとき、私自身になんの売り上げもついていない。数字の上での成績はゼロ続き。普段顔を合わせない地方の営業であるモリさんにとって、なんの成績もあげずに幹部にかわいがられて、いい給料をもらっている調子こいた若造という扱いになっていたのだ。

本社も担当営業も頼りにならない。孤立無援。

私は急いで自宅に戻り、割と買ったばかりだったUSB接続のプリンタを抱えてお客様のもとへ。そのプリンタをプレゼントすることでなんとか怒りを鎮めてもらうことに。これで万事解決・・・とはいかなかった。この件は複数台のPCが販売された大口だ。数日後、予想だにしない出来事が起こる。

社長用を除いたPCが全てぶっ壊れる。

そんなバカな!である。なぜそんなことが起こるのか、PCを設置していた場所が問題だった。職種はぼかすが、『削る』作業がメインとなる工場に設置されていた。『削る』ことで日常的に粉塵が舞う作業場。そこになんの対策もせずにPCを置いているのだから当然。粉塵を吸い込みまくってファンに支障が出たのだろう。CPUが冷却されなくなり無事死亡、というわけだ。

そんな場所に設置すると事前に聞いていれば・・・などと言っても後の祭り。社長の怒りは頂点だ。今度はさすがにモリさんが動くが、通用するはずもなく。結局、Flashを使ったサイトをタダで作るといったサービス等を加えて納めてもらう形となった。

この後も、各地の営業さんとの間で『同様にプリンタが接続できないPCを販売してしまい、変換ケーブルを自腹で買うことになった案件』、『フロッピーディスクドライブが付いていないPCを販売してしまい、外付けドライブを自腹で買うことになった案件』といったように、PCが販売される度に自腹を切る嫌がらせのようなケースが立て続けに起こる。酷いものだった。

そして。

こんな商品知識の無い営業ばかりでは会社の業績も伸びていくわけはなく。例のアヤシイ商品も調子良く売れ続ける、なんてことは無く。

リストラの嵐が吹き荒れるのだった。

<つづく>

「ダブルオーゼロ」よりスタッフとして参加。スタッフ兼エキストラとして活動していたが、2012年より役者にチャレンジ。

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