その4・ひとにやさしく

「泥船会社盛衰記」連載!

人生初営業の日。なにやら怪しげな商品を扱うことになってしまったわけで、すっきりしないままの出社だ。

営業部門のO部長はなかなか目つきの鋭いの悪人面。このツラ構えであの商品を扱ってしまったら怪しさが倍増しそうな人だ。申し訳程度の商品知識を叩き込んでもらい、とにもかくにもNさんという先輩についていくことに。同じ営業のTさんが言うには、Nさんの営業は丁寧で、新人がお手本とするにふさわしいらしい。ちなみにNさんのイメージだが、体格的にはサンドウィッチマンの伊達さんという感じ。顔は似ていないが目は優しい人だ。

「まあ最初はやり方をみているといいよ」

そんな言葉をかけてもらい、Nさんの営業車の助手席に乗り込む。どこへ行くか聞かされずに出発したが、しばらく走ってとある公園の駐車場に停車した。おもむろにシートを倒して横になるNさん。

「とりあえず休憩ね」

これが営業というもの・・・?お手本としてずいぶんなスタートであったが、すぐに休憩の理由を教えてくれた。現在ターゲットにしている職種の人は、がむしゃらに訪問しても話を聞いてもらえないらしい。その職種の人の休憩時間を狙って営業をするので、それ以外の時間は休憩したり、日報などの書類を処理しているとのことだった。営業の人はこうやってうまく時間を使ったりするのか、と普通に勉強になったが、この記事を書いている2017年現在ではGPSで見張られてこういう休憩は取れなくなってるのかな。

公園を出発してからは、客先に飛び込んでいくNさんの後について行ってその営業っぷりを見学。物腰柔らかく丁寧な話し方。押しも強すぎず確かに丁寧だ。しかし扱う商品がアレでは焼け石に水。結果は出るものではない。数件回った先で、

「よし、つぎ一人で行ってみようか」

おもむろに一人で飛び込むことになってしまった。Nさんが使っている資料を小脇に、いざ突入。なんとか門前払いはされずに済んで、少なくとも話は聞いてくれることとなった。なったわけだが、資料を出した途端に反応が。

「あー、それね。知ってるよ。もう君の会社、業界内で有名だよ、怪しいって。」

・・・もう知ってらっしゃる!

「君、慣れてないみたいだから新人さんでしょ。その会社辞めた方がいいよ。」

めっちゃやさしくされる!

この方のおっしゃる通り、辞めておけばいいのですが、もう適当な返事をして逃げ帰ってしまいました。その後の先輩や会社への報告も適当ですよ。

(しかし、この会社、OA機器メインでやってたのにどこからこんなアヤシイ商材見つけてきたんだろう・・・?)

こんな疑問が浮かんだ。で、この疑問の答えは割とすぐに判明した。


別な日。

外出前、まだ事務所にいるときだ。一本の電話が入り、私は受話器をとった。

「Oさんという方はいらっしゃいますか?」

悪人面O部長宛の電話だ。社会人としての電話の応対がまだ身についていなかった私は相手の名前を確認せずにO部長に「お電話です」と受話器を渡してしまった。

そのまま受話器を耳に当てることもなく、即、電話を切るO部長。

「俺は誰だかわからない電話には出ない!ちゃんと名前を確認しろ!」

電話応対が出来ていないので怒られるのは当然。しかしそれにして凄い剣幕。何も聞かずに切ることはないんじゃ・・・。するとO部長が席を外した時に、事務の方がこっそりいくつかの情報を教えてくれた。

  • 6000万の借金を踏み倒して逃げている。
  • いま住んでいるアパートは社長の名義で借りてもらっている。
  • アヤシイ商品の話はOさんが持ってきたもの。

驚愕の事実。逃げてる最中だから自分の今の居場所がばれないかハラハラしているということだ。こんな額の借金踏み倒してる人、現実に存在するなんて驚きだ。そして、商品についてもそもそもO部長が発端だった。こんな借金から逃げてるような人を匿ったうえにアヤシイ商品を取り扱うなんて社長はなにか弱みでも握られてるのか・・・?

新たな疑問が生まれたが、社長とO部長の関係はその後も判明することはなかった。

そして、こんな営業の日々はそこそこに、私はデスクワークの方へ戻っていく。

今度はこの会社にホームページ制作の仕事を持ち込んだ男が現れるのだった。

<つづく>

「ダブルオーゼロ」よりスタッフとして参加。スタッフ兼エキストラとして活動していたが、2012年より役者にチャレンジ。

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