いろいろ不安を抱えながらもホームページ制作の仕事もついに始まる。基本的には営業さんが依頼をとってくる流れとなっており、ポツポツと依頼が入ってきたのだ。
アヤシイ商品の営業担当もであるタルサキさんがとってきてくれた件では、クライアントも納得したうえで制作に入ることができた。制作したWebサイトはかなりシンプルなものではあったが、問題も起きることなく、まずまずの結果と言えた。タルサキさんは社内ではパソコン絡みの知識を持っている数少ない一人。他の営業さんももう少しパソコンの知識を持っていればこれから起こる苦労はもっと少なかっただろう。嘆いていてもなにも変わらず、ここから先のトラブルは積み重なっていく。
ある日、埼玉県某営業所の支部長、スナガさんから連絡が入った。スナガさんは小柄な、人懐っこい笑顔が武器のおじさんである。その雰囲気は今で言うなら尾木ママという感じだ。
「ホームページの依頼を受けたから、直接お客さんのところに行って話を聞いてくれるかい?」
タルサキさんはある程度ヒアリングなど対応してくれたが、こちらのスナガさんは最初の打ち合わせから丸投げだ。ともかく直接会って話を進めていこう。営業車は無いので自分の車で大移動、お客様のもとへ急ぐ。
「で、ホームページってのはなんだい?」
衝撃の言葉を聞かされた。小さな会社の社長であるお客様はホームページというものをなにひとつ理解していなかった。
(なんで?)
(なんで契約が成立してるの??)
(安い金額じゃないよ!?)
わけがわからない。頑張って『ホームページ』を説明してみても、
「それはなんの役にたつんだい?」
これである。世間での例を伝えてみたり、いろいろ例えてみたりした結果、
「ホームページアドレス・・・アドレス・・・住所・・・じゃあ、その住所にeメールってのが届くわけか。」
これが限界。かなり頑張りましたよ。実際に作ったものを見せながら、また改めて説明しよう、ということでこの日は切り上げることにした。
しかしながら恐ろしい状況。スナガさんは長年OA機器販売をやってきた紛れもないベテラン営業なのだが、パソコンやインターネットといったIT化の波に全く乗れていない人だったのだ。情報弱者だ。しかしベテランであることが話をこじらせる。長年の信頼だけで売れてしまうのだ。スナガさんのおススメなら間違いないだろうと。もちろん買う方も情報弱者。そしてこんな情弱ベテラン営業がまだまだ存在するのがこの会社。どういうことが起きていくか、想像がつくだろうか。
弱い者達が・・・さらに弱い者をたたく・・・
なんだか名曲が生まれそうな勢いだが、私は栄光に向かって走ることのない、この泥船に乗って行ってしまうわけである。
<つづく>