その14.人は見た目が

「泥船会社盛衰記」連載!

以前、存在をほのめかしたこの会社の常務。小岩さんという。いわゆるちょいワル親父、という風貌。そこまで黒くない松崎しげる、といったダンディなおっさんだ。似顔絵を描くことをなかったことにしているが、まあ勘弁していただきたい。

この小岩常務、地方の事業所やグループ会社を見て回っていたようで、ここまでほとんど関わったことはない。が、ある朝出勤するとそんな常務が珍しく本社にいる。そして、見知らぬ男女も。

ショートカットのスポーティな女性。
金髪ロングのヤンキー風女性。
自分より一回り二回りは大きい体格、スキンヘッドに口髭顎髭の男。

(誰だろ?取引先の人?)

そんなことを考えていると常務の方から、

「こいつら、今日から入社した新しい営業の奴らだ。よろしくな!」

こんな感じで紹介された。ノリが軽い。

(・・・リストラで人減らしてからそんなに経ってないのに・・・?)

と、不思議に思ったがこの会社ならなにがあってもおかしくない。挨拶もそこそこに別室の自分のデスクへ向かった。しばらくすると社長がやってくる。

「なあ、高雄。なんか見たことない奴らがたくさんいるんだが、誰だか知ってるか?」

「え?常務から今日から入った新入社員と聞いてますけど・・・?」

「なにィ!聞いてねぇぞ!小岩ァ!」

家系図持ってこい!に匹敵する声をあげる社長。驚きである。常務の独断だったのだ。こんな感じで社員って雇えるの・・・?という疑問をよそに常務を呼び出して言い合いを始める。

「わっはっは、まあいいじゃない社長~」

なんて笑いながらかわす常務。本当にノリが軽い。もう少し煮詰めれば高田純次の域に達しそうだ。その後、社長をなだめきった常務から聞かされた採用基準がまたすごい。

見た目。見た目で営業を雇ったというのだ。

「こういう悪そうなヤツがよ、ちょっといいことするとみんなコロっといっちゃうんだよ!」

なんて得意げに語ってくれた。要は『劇場版ジャイアン理論』みたいなものだ。こんな考えで社長に無断で人を雇ってくるんだからメチャクチャだ。本当に営業で通じるんだろうか。

3人の新入社員のうち、スキンヘッドの巨体・クマさん(仮名)と話してみると、さすがこの見た目。悪役のエキストラなんぞをやっていたという。撮影に参加しに行ったつもりがマジモンの集まりに入ってしまったこともあるとか。この逸話を語るクマさんの笑顔は可愛らしく、なんだ、怖くないんだ、いいひとだな、という印象に変わっていた。・・・うん、まんまと常務の術中にはまっている

そんなクマさんが営業で実績をあげると、小岩常務からも設定とか手伝ってやれ、と応援に行かされる。現場につくとクマさんからこれの設定なんですけど・・・とテレビ電話を渡される。・・・テレビ電話?いつの間にこんなもの販売してんの!?

小岩常務案件、まだまだ油断できない。

<つづく>

「ダブルオーゼロ」よりスタッフとして参加。スタッフ兼エキストラとして活動していたが、2012年より役者にチャレンジ。

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