その16.ピンチの先に

「泥船会社盛衰記」連載!

正直に言ってしまえば楽なのだろうか。

いや。

古いOSのPCだったうえに不良品なんて聞かされたら怒らない人はいないだろう。いまはこれが最善策と信じて部長の到着を待つしかなかった。

たまに覗きに来る社長の前で、設定済みのPCをひたすらいじる。意味もなくウィンドウを開いては閉じ、コントロールパネルを開いては閉じ。

「意外と長くかかるんだなぁ」

社長はこんなことをぼやいている。が、ひとまず怪しまれてはいない。部屋にいてもやることはないので社長はすぐに退室。そして小一時間後、イササカ部長は戻ってきた。社長と鉢合わせることもなくベストタイミングだ。

問題はここから。初期設定、プリンタ設定や社長が使う各種ソフトウェアのインストールなんかをもう一巡やらなくてはならない。全て終わるまで引っ張って大丈夫なのだろうか。できれば時間はかけたくない。

私はイチかバチか、PCを分解し始めた。

いや、分解は大げさか。ハードディスクの入れ替えを試みたのだ。2台のPCのケースを外し、中のハードディスクを抜き取り、入れ替える。PC初心者からみたらなかなかの異常事態。そして運良く社長が覗きに来ることなく作業は終了。新しく持ってきたPCに設定を終えたハードディスクが入っている形だ。こんなやり方で起動するのか不安はあったが、あっけないほど簡単に起動。

部長とともに無事帰還したのであった。


さあ、この会社での仕事も終盤。

正直、メンタルは相当参ってきていた。

朝は会社に行きたくない気持ちがのしかかり、なかなか起き上がることができない。なんとか奮い立たせて会社に行ってしまえば、なんだ、たいしたことはないや、と少し軽くなる。しかし、夕方に向かうにつれてなんでこんな会社で働いてるんだろう?何やってるんだろうと沈んでいき、仕事から解放されれば、なんとかなるもんだと少し気持ちが前を向く。こんな感じで一日の中で気持ちが浮き沈みし続ける。

ある時にはなんの用もないのに大学時代の知人に急に電話をかけたりしている自分がいた。相手からすれば特に仲がいいわけでもない人間から数年ぶりに電話がかかってくるわけでこんな気持ちの悪いものはないだろう。自分の行動が怖くなり、携帯に入っている連絡先のデータを全て削除した。

この状態でなぜ続けていたかと言えば、大学中退という自信の経歴が関係している。自分の勝手で途中で逃げ出して親に迷惑を掛けてきたことを後悔していたためだ。今考えるとおかしな話で、自分が潰れてしまうくらいならとっとと辞めてしまえばいいものを、当時はなぜか意地になって辞めずに最後までやってやる、という気持ちが働いていた。そのおかげでギリギリ踏ん張って仕事を続ける。残りはそんな日々。

そしてまたやってくるのは小岩常務絡みの仕事。こちらとしてはもう勘弁なのだが、その想いに関係なく、逆に気に入られてしまったのだ。常務の車のドライバーとなり、まだ行ったことのなかった北のほうの事業部、グループ会社を巡ることになるのだが、これはまた次回ということに。

<つづく>

「ダブルオーゼロ」よりスタッフとして参加。スタッフ兼エキストラとして活動していたが、2012年より役者にチャレンジ。

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