その18.最後のとき

「泥船会社盛衰記」連載!

急展開だったのか、当然の展開だったのか。

好調と謳われていた営業チームは完全に詐欺まがいの営業を行っていたようだ。姑息な方法で売り上げをあげていることを武勇伝のように語っていたゲス谷のいる若手チーム。リストラの可能性に脅かされていることも手伝い、歯止めが効かなかったのもあるだろう。ユーザー達は被害者の会のようなものを結成、訴えを起こしたのだ。この会を結成した人たちは私が最初にナマムラさんと営業にいった業種の人たち。あの時点で怪しまれていたし、もう準備は始まっていたのかもしれない。

噂はあっという間に広がったのか、会社に直接押しかけて来る人も現れる。この時、私のデスクは会社の入口付近の変な位置に移動しており、真っ先に対応する状況になる。くわえて、問い合わせの電話も続々と鳴り出す。さらに私の携帯を知る人からの電話もある。目の前に飛び込んできた人に頭を下げ、会社の電話に頭を下げ、次に携帯に対応、また電話が鳴り、携帯が鳴り・・・。

ガン!

許容を越えた私は携帯電話を思い切り壁に叩きつけた。外装が剥がれただけで意外と壊れない。そんなちょっとしたパニックに襲われた私はこのあとどう動いたのか、実のところはっきりと覚えていない。とりあえずお偉いさんたちに対応してもらおう、そう考えてその場を離れたかと思う。

とにもかくにもこの事態だ。いよいよもって会社が終わる、そうとしか考えられない。そして、アヤシイ商品とは関係ない、ホームページ等のお客さんのことを考える。このまま会社になにかあったら申し訳がたたない。そんな気持ちになり、ギリギリまで対応してやると覚悟を決め、自分のデスクに戻る。さあ、パソコンを起動し・・・???

パソコンが無い。

ホームページ制作向けにFireworksやDreamweaverをインストールしたWindowsパソコンが無いのである。席を離れた間に何があった??経理のおばちゃんらに聞いていくと、退職金代わりにもらっていく、とか言い残して工事部部長が担いで持って行ったということだ。突然の火事場泥棒。残っているのはFlashだけがインストールされただけでいまいち有効活用できていないMacだけ。主なデータは全てそのWindowsの中。ギリギリまでやってやる、という覚悟をぶつける先が無くなってしまい、茫然とするのみだった。

そして。

会社は倒産に追い込まれる。

いや、計画倒産というやつだったのか。詳しい話を聞かされないまま、話は動いていた。私やタルサキさんなどに対しては倒産前に解雇という形がとられ、会社を去ることとなった。いろいろ宙ぶらりんな仕事を残したまま。最後にデスクまわりの片付けをしていると私のPCを持ち逃げした工事部部長のことを思い出した。

(退職金代わりというなら、Macをもらっていけないものか)

ちょうど近くを通った社長にそのむねを伝えると、社長は言葉を発さず、『勝手にしろ』という感じで背を向けたまま手をひらひらさせ、自分の部屋へと消えて行った。それが社長の姿を見た最後だった。それ以外の人ももはやどうでも良く、ただ一人最後に言葉を交わしたのはタルサキさんだけ。

「また会社を興そうと思うんだけど、高雄ちゃんもこないか?」

こんなお誘いの言葉をかけてくれた。社長が力を入れていたパンドラボックスを有効活用してやろうと考えているらしい。誘ってもらえたのは嬉しかったが、丁重にお断りをした。この会社の残した物に関わるのは嫌だったからだ。その後、パンドラボックスを使ってるのかな?という所は古河市内でも見かけた。タルサキさんはどこかでおっぺしているんだろう。

一方で宙ぶらりんになっていたいくつかの案件が気になっていた私は謝罪行脚に回っていた。偽善のようなものだが、自分の中で未消化で気持ち悪かったからだ。お客さんによっては数週に渡ってPC講習などをすることにもなったが、とある小さな会社の社長さんは

「あんたは何も悪くないよ。なんならウチで働いてみるか?」

なんて声をかけてもらい、少し報われたような気持ちになった。一段落したらしばらく休みたかったのでこの件もお断りしてしまうんだが。

また、実家にスナガさんが押しかけてきたりという件もあった。図々しいかぎりだ。スナガさんは新しい会社に私を雇いたかったようだが、当然お断りだ。顔も合わせたくないので親に頼んで追い返してもらった。

「息子さんは素晴らしいエンジニアです、ぜひ我が社に…」

などと言っているのが聞こえたが、エンジニアと呼ばれるような仕事をした記憶はない。最後まで口八丁。困った人だ。

その後は、しばらく家で寝込んだり、軽いウツのような気持ちにはなっていたが、医者に行くこともなくゆるやかに回復出来たのが救いだった。

こんな感じで、この約一年間務めた会社の思い出話はお終いとなる。とくにオチらしい話はつかず、締まらない感じだが勘弁していただきたい。

この経験は糧となってるのか、なんなのか。しかし、この会社で覚えたFlashアニメの技術とちゃっかり頂いたMacは、このあと参加することになる自己批判ショーに還元されることになるのだった。

<おしまい>

「ダブルオーゼロ」よりスタッフとして参加。スタッフ兼エキストラとして活動していたが、2012年より役者にチャレンジ。

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